case08 思い通りの家を建てるためのコストダウン術

理想の家を建てるのに、目の前に立ちはだかるのが「予算」の壁。限りある予算のなかで、いかに建て主の希望を叶えるかが建築士の腕の見せどころだ。コストダウンに取り組む建築士がその秘訣を公開してくれた。

建具をなくしてコストダウン扉の代わりにカーテンで仕切ったら開放感のあるワンルームに

今回ご紹介するのは、神奈川県川崎市のみさき建築研究所が手がけた2つの物件。代表の御前(みさき)好史さんは「ローコストで高品質な家」をテーマに、住宅建築に取り組んでいる。

御前さんが最初に案内してくれたのは、神奈川県平塚市にある若林久人・いずみ夫妻の家。
玄関を入ると細長い土間になっており、土間には3台のマウンテンバイクが飾られている。土間をあがると1階は広々としたワンルーム。フローリングの床に白い壁。収納家具がほとんどない、非常にすっきりとしたお宅である。

若林さん夫妻が家を建てようと計画したのは、今から1年半ほど前のこと。まだ若い若林夫妻が用意できるお金は2,000万円が限度。でも、建てるからには機能的でいい家にしたい。ハウスメーカーの家なども見に行ったが、「いい家だけど、よくある感じだし、しかも高かった」ので気乗りがしなかった。

そんな時、いずみさんの父親、雫石利一郎さんがインターネットでみさき建築研究所のホームページを見つけた。これまでの建築事例などを調べ、ここなら予算内でいい家を建ててくれそうだと、依頼することに。
「建築士さんに頼んで設計してもらったほうが費用が抑えられるなんて、すごいですよね」(いずみさん)

「コストダウン」というと、安上がりにすませる...という印象があるが、「コスト(費用)とプライス(価格)は違うんです」と、御前さんは言う。
「プライスというのは、こういう仕様でこういう値段で...という表面的なもの。建て主の生活の仕方や、使い勝手、まわりとの調和などを考え、どんな材料を使うのか、どんな形にするのかなど、さまざまな方向から検討して、そのうえで値段がこうなると提案するのがコスト。だから、コストダウンは品質を落とすことではない。建て主と建築士が協力すれば、ローコストで高品質な家ができるのです」

玄関に続く土間の写真

玄関に続く広い土間はご主人の一番のお気に入り。趣味のマウンテンバイクを飾って収納。愛車の手入れをしながらここで過ごす時間も多い。

間取り図

1階は広いワンルーム。2階は寝室と将来に備えた子ども部屋(いまはトレーニングルームとして使用)。畑に面した浴室は、奥さまのお気に入り。洗濯機の横にバルコニーがあり、洗濯物をすぐに干せるようになっている。

オープンシステムで建築費が1~2割も安く

コストダウンができた一番の要因は、オープンシステムを採用したこと。これは、建て主が直接専門工事業者に発注するシステムで、ハウスメーカーや工務店などの業者を介さない分、中間マージンを省略することができる。同じ設計をもとに標準的な材料を用いて建てたとすると、オープンシステムでは、一般的な工務店よりも10~20%建築費が安くなるという。

「専門工事業者に発注するといっても、専門的なことは、建築設計事務所がすべて代理で進めていきます。 値段が合わない場合は、複数の業者から見積もりを取るだけでなく工事の方法も再検討します。また、ここは無駄ではないかという仕様や箇所についても話し合います。このようなプロセスがあってコストを抑えることができるのです」(御前さん)

外観のイメージ

外壁は窯業系(セメント系)サイディング。エントランスの庇や上下窓のつなぎ部分には特注のステンレス板を使用。地面は砕石を敷き詰めるだけにしてコストを抑制。

玄関のイメージ

玄関の扉の右側には、ガルバリウム鋼板を用いた。シンプルな外観に濃い色がよいアクセントになっている。

内部の間仕切りを少なく、外観の凹凸も少なく...

リビングの写真

トイレをのぞけば、1階に唯一あるのがこの扉。後ろは物入れ。建具は部屋にあわせてすべて御前さんがデザイン。予算に合わせて工夫をこらす。

品質を落とさずにローコストな家をつくるには、内部の間仕切りをなるべく少なくするのが秘訣だと御前さんは言う。そうすることで、構造材や下地材だけでなく仕上げ工事の面積建具コストも確実に減ります。スッキリした空間が実現できると同時にコストダウンが出来て一石二鳥となる訳です。

実は若林邸も、1階にある建具は、トイレのドアと、階段脇の扉だけ。ダイニングと居間、居間と土間は、それぞれカーテンで仕切る形になっている。みさき流コストダウン策の一環なのだが、そのカーテンが逆に個性的でおしゃれに感じられる。

若林夫妻が出した一番の要望は「夏涼しく、冬暖かい家にしてほしい」ということだった。外壁は内断熱と通気工法を採用して、屋根は90mmの断熱ボードを外側に設置している。床暖房を入れているため、間仕切りのないワンルームは冬も十分暖かい。もちろん夏には風が通り抜けて行く。

若林邸のモダンな外観も、実はコスト面を考えた上でのこと。外壁の凹凸をなるべく少なくすることも、工事費を安くするコツなのだという。
御前さんは、外観をシンプルにするとともに、材料もシンプルでコストがかからず、メンテナンスが楽なものを選んだ。地面も砕石を敷き固めただけ。一方で、玄関まわりにガルバリウム鋼板をワンポイントに用いた。また、玄関前にちょっとした塀を設けるなど、建物にアクセントをつけて個性を出した。
「もちろん、家は住む人の生活、考え方に合わせたものでなければなりません。自分のこだわりたい部分にはしっかりお金をかけ、そうでない部分はシンプルに合理的にすませる。どこにお金をかけ、どこを合理的にするかは、何度も話し合いをし、建て主の考えをきちんと把握することが大事だと思います」(御前さん)

水回りの写真

(写真左)底面が平らな大きめの陶器をメラミンカウンターに落とし込んだ洗面所。コストは安くすむが、使いやすいと好評。

(写真右)対面式キッチン。システムキッチンの棚を後ろに持っていくことでカウンター回りがすっきり。

オール電化のエコな家で光熱費も削減

コストを抑えるために、建て主側も頑張った。隣の敷地に住む両親も協力し、シロアリ防除のための防蟻工事や、窓枠や建具など木部のオイルステイン塗りなどは自分達で行なった。

結果的に若林さんが家の建築にかかった費用は2100万円。外構工事や追加工事などで多少余分にかかったものの、ほぼ予算内におさまった。夫妻の家への満足度は「五つ星」だという。

キッチンのイメージ
DATA 若林さんの家